○「市政マネジメントシステム」            三重県松阪市

1.松阪市の取り組みの概要

  「行政の経営品質の向上」、これを最終目的として、次の8項目にわたりシ
 ステムを構築、平成14年度より、着手できるものから順次取り組んでいる。
  @政策形成システム
  A行政評価システム
  B市民参加・参画・協働システム
  C人材能力開発システム
  D環境マネジメントシステム
  Eリスクマネジメントシステム
  F公会計システム
  G情報共有システム
  現市長が国会議員から市長選に当選。その当初より、市役所のシステム改
 革に取り組み始め、このシステム構築となった。
  また平成12年、地方分権一括法が制定され、いよいよ地方の時代という
 時期にさしかかっても、市役所職員にはそうした危機意識も改革意識も見ら
 れなかった。
  その背景には、現在の市役所の行政に対する次のような認識があった。
  @中央からのコントロールが強く、主権がない。
   …補助金、交付金、許認可、行政指導などで、地方は中央の金縛り。
  A職員の政策形成能力が乏しい。
   …これまで、中央の言うことを聞いていればよかった。
  B行政が優先で市民は受動的なあり方である。
   …市役所の仕組みが行政のご都合主義であり、市民は脇役となっている。
  C意識のマンネリ化
   …旧態依然の体質、組織は硬直化、惰性、不祥事もある。
  D非効率的、非合理的、非科学的な市役所行政である。
   …縦割り行政、予算偏重主義は時代錯誤であり、財政は悪化している。
  このような事実認識に立ち、松阪市は「市民が主人公」「自己決定・自己責
 任の行政運営」を理想に掲げ、「行政の最適化」を目指す。
  具体的には、
  @市民が主人公
   …行政のものさしは市民の「安心・安全・満足・誇り」
  A自己決定・自己責任
   …地方政府の確立。地域のことは地域で決め、自ら責任を持つ
  B市民との協働
   …まちづくりは「人づくり」
  C情報の共有
   …情報公開・情報提供
  D行政の効率化、時代にあった行政適用
   …科学的考察と戦略的選択
  を実現するため、このマネジメントシステムを立ち上げたものである。
  所管は松阪市経営管理室。


2.システム構築への検討組織を作る

 @庁内
  ・市長を本部長に、庁議メンバーで対策本部を組織。
  ・その下に総務・企画部門の課長級で構成される組織委員会を作る。
  ・さらに係長級以下のメンバー18人で、システム委員会を作る。
   このメンバーは夜11時まで、下記民間識者にいろいろと教わりに出か
   けることもあった。
 A市民の代表
  ・大学教授、民間社長などで構成する市政マネジメントシステム構築検討
   会議を組織。さまざまな提言を上記対策本部に対し、行う。
  ・外部コンサルタントは利用しない。
 B一般市民
  ・検討の内容を積極的に公開。地方紙に案内を掲載。HP作りにも参画。


3.各分野別システムの詳細

 @政策形成システム
  ・総合計画を市民参画の下で作る。
  ・予算編成を、これまで形骸化していた「実施計画」を見直し、幅広い政
   策議論を展開、それをもとに政策本位の予算編成を行う。
   …「実施計画」は、従来予算編成ありき、で「ついでに」作られていた。
    それを、まず実施計画を作成、これを政策議論で練って、予算案に反
    映させる。市長に訴える場合もある。
   …毎年7〜8月に、明年度の実施計画ヒアリングを行う。11月に公表。
  ・庁議(部課長級17名)を政策論議の場とする。
   …従来の庁議は「市長の一声で決まり」という、伝達報告だけの会合で
    あった。
   …これを改革し、伝達報告のほか、月に1〜2回は政策会議としている。
    市長「俺はこう思うけど、どやろ?」と部下に尋ねる。すると部下が
    反論する、といった光景である。
   …「俺を裸の王様にするな」が市長の口グセである。
  ・政策情報の庁内共有、一元管理を図り、HPは各課立ち上げ。
 
 A行政評価システム
  ・全国的には65パーセントの地方自治体が実施または実施予定である。
  ・松阪市では行政評価システムだけを単体で構築するのでなく、「行政の品
   質向上」という大スローガンのもと、その中の一角と位置づけて行政評
   価システムが構築されているところが特徴。
  ・平成14年度、各施策に対する施策評価、各事業に対する事務事業評価
   を開始。施策評価は市民満足度という観点から評価を行い、事務事業評
   価は達成度、成果という観点から評価を行う。
  ・上記2面の評価を元に、「戦術分析」を行うこととなるが、これは現在構
   築中。例えば、事務事業の達成度は高いのに市民の満足度が低いという
   場合、その原因を究明、施策と事業とのギャップを埋める戦術を考える
   ことになる。

 B市民参加・参画・協働システム
  ・市民が主人公、市民との協働が不可欠、との時代認識のもと、公共の仕
   事は、もはや行政が独占できない、またすべきでない、との発想に立っ
   ている。
  ・「市民参加・参画・協働システム構築市民委員会」を組織。公募7人、市
   民団体への声かけで7人、計14人で構成。
  ・市政モニター、サポーター登録制度を採用。
   …市政サポーターは現在106人。アンケートに応じてもらったり、話
    し合いをしてもらったりしている。問題点として、高齢者が多い。そ
    こでもっと高校生を増やそうということで現在動いている。
  ・市の施設「カリヨンビル」を市民活動センターとして開放、自治会連合
   会がここに事務所を開設。またNPOの活動拠点としても提供している。
  ・地域カルテ方式の採用。これは庁内HPで地域ごとの問題点などを紹介
   し、庁内で情報を共有しようとするもの。
  
 Cリスクマネジメントシステム
  ・事前作業としての「危機管理マニュアル」の作成
  ・事後作業としての「危機管理対策会議」を組織。庁議メンバー。
  ・現時点では、各課ごとの「業務マニュアル」に危機管理を項目化。

 D人材能力開発システム
  ・各職場からアンケート、インタビュー、ミーティングの開催などで課題
   を抽出、「人材能力開発システム検討委員会」(職員課所管)で検討、と
   いうシステム。職員の労働環境システムの改善を図り、職員の満足を図
   ることで職員が能力を十分発揮、ひいては市民満足度向上を期する。
  ・職員の人材育成、能力開発で行政経営の質の向上を実現。人事評価に取
   り組む。

 E公会計システム
  ・総務省方式が全国の90パーセントの自治体で採用されているので、他
   市との比較が容易であるというメリットがあるのでこれを採用。
  ・毎年12月に公表。
  ・市政マネジメントシステムの一角と捉えていることから、これをシステ
   ム全体の中で活用。市民への公表、行政評価との連動。

 F情報共有システム
  ・積極的に情報を提供していくことに力点を置き、「提供義務付け」、「内容
   の充実」、「会議の公開」を進めている。
  ・公開できない情報について、「個人情報だから」など、「公開できない理
   由を公開」することにしている。
  ・市民との双方向性を確保するため、アンケートを行い、職員の対応、言
   葉遣い、服装などについて聞くこともある。
  ・市長がタウンミーティングを定期的に行い、全公民館を巡回している。

 G環境マネジメントシステム
  ・ISO14001を平成13年11月に認証取得。
  ・省エネ省資源、ごみ減量リサイクル、環境に配慮した公共事業、グリー
   ン購入などのほか、エレベーターは使わない、消灯、自転車を利用、裏
   紙の利用など具体的に推進している。

4.日本経営品質委員会アドミニストレーションとの連動

 @概要
  ・同所が推進している経営品質向上プログラムに基づき、同所の「アセス
   メント基準書」に準拠して活動を推進している。行政がうまく回ってい
   るかどうかをチェックする仕組みである。
  ・したがって松阪市では、同市の市政マネジメントシステムとこのアセス
   メントの2本立てで、行政の品質向上に取り組んでいる。
  ・いわば行政の健康診断である。しかし治療は自分で行なわければならな
   い。
  ・行政評価が成果を評価するものであるのに対し、上記はプロセスを重視
   する。
  ・日本経営品質賞委員会が行う「日本経営品質賞」に応募。
    …〒150−8307
   東京都渋谷区渋谷3−1−1  рO3−3409−2641
   URL http://www.jqac.com
    …基準書は3000円。解説書は3月末に発行されている。

 A日本経営品質賞の詳細
  ・4つの理念…顧客(住民)本位、独自能力(人と同じことをしているの
   ではダメ)、社会との調和、職員重視(職員満足度)
  ・7つの基本的考え方
   …顧客から見たクオリティ、リーダーシップ、プロセス志向、対話によ
    る「知」の創造、スピード、パートナーシップ、フェアネス
  ・8つの評価基準(これに対し1000点評価を行う)
   …経営幹部のリーダーシップ(120点)
    経営における社会的責任(50点)
    顧客・市場の理解と対応(110点)
    戦略の策定と展開(60点)
    個人と組織の能力向上(100点)
    価値創造のプロセス(100点)
    情報マネジメント(60点)
    活動結果(400点)
  ・アセスの結果、松阪市が評価された点
   …市長のリーダーシップ、強力な品質向上活動の展開、情報インフラの
    整備と共有化、活用(全職員にメールアドレスを持たせている)
  ・アセスの結果、指摘された改善点
   …・経営ビジョン、戦略の一貫性、整合性
    ・経営幹部の先見性、マネジメント力の向上
    ・「市民が主人公」を真に把握する仕組みの構築
    ・仕組みや制度の継続的な評価とスクラップアンドビルドの計画的な
     推進
    ・縦割り行政からの早期脱却へ、仕組みを構築
    ・目標値の設定、結果の把握

  ※ちなみに、H14年度の松阪市の採点は300点。日本一はNECフィ
   ールディングの600点、三重県庁は400点。世界一では700点の
   企業があるとのことである。


5.感想

  「モノの品質から経営の品質へ」。この標語が、なるほどと心から納得させ
 られる研修内容でありました。
  「現場第一線の職員のサービスのあり方ではなく、組織経営そのものがど
 れだけ住民本位であるかが問われる」。なるほど。奥深い理論構築とそれを実
 現するための壮大なシステム構築が、ここにはありました。
  何からどう着手すればいいのか、わからないような壮大なシステムを示し
 ていただき、感嘆のあまり言葉を失うほどですが、これとて人間が構築した
 ものであり、またまさしく「自己決定・自己責任」、松阪市オリジナルです。
  感想として、有体(ありてい)に「トップの手腕だ」とも申せますし、「窓
 口職員の応対だ」とも申せます。しかしそれらは一部分観でしかなく、松阪
 市でしばしば耳にした「システム」、それ自体を構築しなければなりません。
 むろん、その「システム」を運営し生きたものとして市民満足度向上に役立
 つものとするのは、生身の人間です。堂々巡りのようになりますが、その、
 仕組みを生きたものにさせるだけの人間を作り出していく、そのための「シ
 ステム」が必要だと思います。
  市長が作らないからダメなんだ、では物事の解決になりません。
  また、説明してくださった職員のお話のなかで「2・6・2」という原則
 というものが紹介されましたが、これは、何をやるにしても全体の2割は熱
 心派、6割はどっちでもいい、残りの2割は邪魔ばかりする、というもので
 す。その職員のお話では、「これをいかに3・5・2にもっていくかが重要で
 あり、最後の2割は…もうしかたないです」とのことでした。このことから、
 いくら立派なシステムを構築したところで、窓口で応対に当った職員のすべ
 てがすべて、市民に心地よく満足のいく市役所となることは、理想ではある
 が、完璧は期しがたいと言うべきでしょう。しかしそれでも、2を3に、6
 を5にするためにも、システム構築は必要でしょう。
  さて、それではこのシステムを、丸亀式市政マネジメントシステムを誰が
 考案し、実務ベースで実現するところまで至らしめるのでしょうか。
  わたしは議員として、議員にできることには限りがあるが、しかし力の限
 りは尽くさねばならない、と、意を固めております。
  定例議会における発言だけでなく、日常あらゆる場面での政策議論、職員
 と、市民と語らい、意見を交換し、そして市長に提言していくことにしたい
 と思います。またHPでの政策発表なども行いたいと思います。そして議会
 は合議制の機関でありますので、何と言っても議員同士の政策論議も不可欠
 と思います。この松阪市で学んだことを参考に、そしてまた刺激にして、丸
 亀独自の方式を構築するところまで、主張をしてまいりたいと思います。
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